欧州自動車業界の再編と課題を分析 アリックスパートナーズがレポート発表
グローバル・コンサルティング・ファームのアリックスパートナーズは2026年10月13日、パリモーターショー2026の開催にあわせ、欧州自動車業界の今後を分析したレポート「Can Europe still build cars into the 2030s?(欧州は2030年代もクルマを造り続けられるか?)」を発表した。レポートでは、欧州の自動車メーカーと部品メーカーが2030年代も競争力を維持することは可能である一方、工場の再編や組織改革などの決断を今下せる企業に限られると結論づけている。また、業界の最大のリスクとして、課題の認識と実行スピードの間にあるギャップを挙げている。

収益性の構造的悪化と約250万台分の生産余力
欧州の自動車市場では、転嫁できないコスト上昇、低コストを武器にする中国勢、電池コスト、SDV(ソフトウェア定義車両)への巨額投資という4つの圧力が同時に生じており、市場の回復だけでは利益率の回復が見込みにくい構造的な局面に直面している。企業の利払い余力を示すインタレスト・カバレッジ・レシオは、自動車メーカーで9倍、部品メーカーで5倍まで低下し、リーマン・ショック後の低水準に近づいている。
生産現場においては、欧州で稼働率60%未満の組立工場が15拠点存在し、約250万台分の生産能力が使われないまま残されている。レポートでは、工場を維持したまま様子見を続けるのではなく、統合、電池組立などへの転用、計画的な撤退を判断し、遊休能力そのものを解消する解決策が必要であるとしている。
組織体制の課題と米欧中での規制分断
欧州の自動車メーカーは技術面で先行競合を追跡しているものの、意思決定のスピードや開発サイクルで後れを取っているとされる。
さらに、データやソフトウェアの規制が分断されたことで、単一の車両を世界で販売する手法は成り立ちにくくなっている。米国は中国やロシアが関わる車載通信・自動運転ソフトウェアを2027年モデルから、関連ハードウェアを2030年モデルから禁止する方針をとる。欧州ではサイバーセキュリティなどの認証や車両データの保管場所が規制され、中国では車両データの国内保存と国外移転前の安全審査が義務づけられている。地域ごとにコネクテッドカーの基盤を個別に整備する必要があり、追加の投資や開発期間が求められている。
電池サプライチェーンの劣勢と中国ブランドの伸長
電池関連のサプライチェーンにおいて、正極材などの電池材料を精製する能力の8割以上が欧州域外に集中している。加えて、産業用の電力価格は中国の約2倍となっており、構造的なコスト差が生じている。EU域内の電池セル生産能力は技術的に2025年の需要を賄える水準に達したものの、稼働率は十分に上がっていない。
一方、中国ブランドの西欧(EU・EFTA・英国)でのシェアは、2026年第2四半期に10.7%(前年同期は6%弱)に拡大し、英国では約15%となった。EUは通常の10%の関税に加え、最大35%超の相殺関税を課しているが、中国勢は欧州域内での現地組立を進めており、中国国外での組立能力は2030年までに約340万台に達する見込みである。
競争力維持に向けた5つの決断
アリックスパートナーズは、欧州自動車業界が実行すべき方針として以下の5項目を挙げている。
- 工場の再編に決着をつける:稼働率70%未満のすべて組立・パワートレイン工場について、24か月以内に存続・転換・撤退を判断する。
- 次世代E/Eアーキテクチャを一つに絞る:機能ごとの制御か中央集約型かのいずれかを選び、複数方式への並行投資を停止する。
- ソフトウェア開発のスピードに合わせて組織を再構築する:プロジェクトチームに権限を移し、AIを開発プロセスの中核に組み込む。
- 電池セルを資本参加で確保する:購買契約だけでなく資本参加により安定供給とコスト優位を確保する。
- 中国勢への対抗策をセグメント別に決める:プレミアム帯ではソフトウェアとブランドで差別化し、エントリー帯では採算の取れないシェア防衛を行わない。

アリックスパートナーズのパートナー&マネージングディレクター 日本共同代表 鈴木 智之 は、中国勢が欧州市場で現地生産を進めた結果として日本勢のシェアが落ちていると指摘し、日本勢にとっても進出すべき国やセグメントを戦略的に意思決定すべき時期であり、財務に余裕がある段階で動く必要があると述べている。
- タイトル:Can Europe still build cars into the 2030s?(英語)
- 発行:2026年10月
- レポート本文URL:https://www.alixpartners.com/media/fy0beb2m/can-europe-still-build-cars-into-the-2030s.pdf
- アリックスパートナーズ概要:1981年創業。ニューヨーク本社のほか世界27都市に3,300名のプロフェッショナルを擁する。日本オフィス設立は2005年(https://www.alixpartners.com/jp/ )。
※図中の「欧州」はロシア等を含む地理的欧州を指し、本文中の「西欧」とは対象範囲が異なります。 本記事はアリックスパートナーズの発表をもとに作成されています。
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