伝統工芸とテクノロジーの融合、ARTerraceが目指す「価値」の再定義
日本の伝統工芸品の価値を、最新のWeb技術で世界に伝える。そんな野心的な取り組みを始めたのが、アートプラットフォーム「ARTerrace」だ。ブロックチェーンやNFT技術を活用し、工芸品の真贋証明から取引まで、すべてをデジタルで完結させる。なぜ今、伝統とテクノロジーの融合が必要なのか。株式会社ARTerrace代表取締役の藤野周作さんに話を聞いた。
「価値」が正しく伝わらない日本の工芸品
「日本には『アート』という概念がないと言えるかもしれません」
藤野さんは、日本の伝統工芸が抱える本質的な課題をそう説明する。例えば浮世絵は、海外では美術品として高い評価を得ているが、当時の日本人にとってはアートという認識はなかった。
この「アートとして見ていない」という視点は、現代の工芸品の評価にも影響を与えている。ARTerraceで扱う作品の中には、作家が1年かけて1点しか作れないような逸品も存在する。しかし、その価値が正当に評価されないケースが多いという。
「欧米のアート市場では、作品の価格に対する詳細な説明があります。なぜこの価格なのか、同じような作家の作品がどう取引されているのか、将来的な価値の推移まで、すべてが明確に示されている。でも日本の工芸品を取り巻く環境においては、そういった説明が不足しています」
技術とストーリーで価値を伝える
ARTerraceは、この課題に対してテクノロジーとストーリーテリングの両面からアプローチする。
まず技術面では、ブロックチェーンとNFTを活用した「Kogei-J NFT」を導入。作品の真贋証明と所有権の証明を、デジタルで完全に管理できる仕組みを構築した。3Dスキャナーや高精細画像を使用した真贋判定技術も導入し、作品の状態や特徴を正確に記録している。
一方で、作品の背景にある物語を丁寧に伝えることにも注力している。「この作品は300年前から続いている技術をベースにしています」「ここで使われている素材は、もう日本国内ではほとんど手に入らない」といった情報を、作品とともに提供する。また、SNSを活用した情報発信や、国内外でのリアルイベントの開催など、様々なチャネルで伝統工芸との接点を作ろうとしている。
「ARTerraceで扱わせていただいている作品の職人の方々は、情熱を持って創作に取り組んでいるます。プロ野球で言えば、大谷翔平選手やイチロー選手のようなすごい方々。その技術や思いをしっかりと伝えていきたい」と藤野さんは語る。
新しい層との「接点」を作る
11月5日、ARTerraceは人間国宝を含む著名な工芸作家の作品40点の取り扱いを開始した。高額な美術品から、若い世代や女性が手に取りやすい価格帯のアクセサリーまで、幅広いラインナップを用意している。
こうした幅広いラインナップは、日本の伝統工芸の裾野を広げる意味合いもある。そしてARTerraceの仕組みをもってストーリーなど発信することで、価値を正しく受け止める文化の醸成も目指している。「例えばInstagramは若い世代が中心で、既存の工芸品購入者層とは異なります。短期的な売上より、まずは幅広く知ってもらうことが大切。工芸を好きな家族がいれば、そこから会話のきっかけが生まれるかもしれません」
伝統工芸の未来は、テクノロジーとの融合にあるのかもしれない。しかし、それは単なるデジタル化ではない。作品に込められた技術や思い、そして何百年も受け継がれてきた価値を、現代の文脈で正しく伝えていく。ARTerraceの挑戦は、日本の伝統工芸の新しいあり方を示唆している。
ARTerrace(公式サイト)
https://arterrace.jp/jp