「好き」だけでいい、渋谷無料インスタレーションのプロデューサーが望むアートのあり方

「なぜこれが好きなのか説明して」。日本のアート文化には、こんな「理由を求める圧力」が根強く残る。音楽や映画なら個人の好みとして許容されるのに、なぜアートだけが違うのか。渋谷の街で行われた展示の背景には、そんな問題意識があった。

渋谷の街中心部にある宮下公園のサンドコート内で、ロープアーティスト・Hajime Kinoko氏によるインスタレーション作品が展示された。第16回渋谷芸術祭2024の一環として行われたこの展示を手がけたプロデューサーの久々野智小哲津(くくのち こてつ)さんに、日本におけるアートのあり方について話を聞いた。

企画・プロデュースを担当した久々野智小哲津さん

「説明できない好き」を認める

「アートって極めて個人的な楽しみでいいと思います」

久々野智さんはそう語る。この一見シンプルな言葉の背景には、日本のアート文化への問題提起が込められている。

「音楽なら、『パンクはうるさい』と思う人もいれば『いいな』と思う人もいて、その違いが普通に受け入れられています。でもアートの場合、『なんでこれが好きなの?』『なぜ説明できないの?』と問われることが多いです」

日本人特有の「説明好き文化」が、アートへの親しみやすさを阻害しているのではないか。久々野智さんはそう考える。

なぜ今、アートなのか

Hajime Kinoko作品:「A New age is Coming」
展示期間:10月31日 (木) ~ 11月10日 (日)
展示場所:渋谷区立宮下公園 サンドコート内
企画・プロデュース 久々野智 小哲津(くくのち こてつ)
「A New age is Coming」

久々野智さんは、ビジネスの世界からアートの世界に入ってきた経歴を持つ。その経験が、現代におけるアートの価値への独自の視点につながっている。

「今、品質の良いものは当たり前になっています。化粧品も、洋服も、家電も、OEMで作れてしまうので最低品質が保たれている。粗悪なものを引く可能性が低い時代です」

そんな機能性や効率性が重視される時代だからこそ、「好きだけど無駄なもの」の価値が見直されているという。

「サウナも健康にいいかどうかは諸説ありますよね? でも、それでも好きな人は通います。効率や機能を考えたとき、一番『無駄』なものがアート。だからこそ、今の時代に必要なのではないかと」

ギャラリーの外へ

久々野智さんプロデュースによる、Hajime Kinoko氏の野外展示は、今回で3回目の試み。1回目のGIZA SIX、2回目の六本木に続き、今回は渋谷が舞台だった。場所選びにも、彼の思いが反映されている。

2023年GIZA SIXガーデン「ENISHI」
2024年六本木アートナイト2024「Link」

「日本ではアートに触れられる場所は限られています。その一つであるギャラリーは、入るのにハードルが高いんです。初めての人に対して説明をしなかったり、ネガティブな言い方をするとスカしているところも少なくはない。日本においてアートに触れる機会というのは、日々の生活と地続きではないんです」

そこで選んだのが、商業施設や公園といった、人々の日常の中にある場所だ。「みんながそれぞれ勝手に感じてくれればいいです。『面白いな』『すごいな』『これ手作りなの?』くらいの話題で喋ってくれれば」と久々野智さん。

文化を育てる土壌として

「日本は文化大国です。漫画、ゲーム、アニメは世界中で支持されている。一方でアートの領域だと、世界で人気なのは一握り。若手アーティストだと特に、まだまだ世界での認知が低いです」

その理由の一つは、アートと生活の距離の遠さにあるのではないか。久々野智さんはそう考えている。

「価格の高さや作家の評価などではなく、たんに自分が好きだから飾る。そういう文化ができれば、作る方も買う方も飾る人も、みんなが幸せになれると思います」

一人一人が「説明のいらない好き」を持てる。アートがそんな存在になる未来を、久々野智さんは目指している。

久々野智小哲津(オフィシャルサイト)
https://q-kotetsu.com

valvix

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