学生たちが繋ぐ「若者の、若者による、若者のためのお能」、20年受け継がれる伝統を広める挑戦
2025年3月、国立能楽堂において、第20回若者能「道成寺」が開催される。日本の伝統芸能である能は、現代では必ずしも身近な存在とは言えない。そんな中、「はじめて観る方のためのやさしいお能」を理念に掲げ、大学生による運営で公演を続けてきた若者能が、記念すべき第20回を迎える。
若者能とは
若者能は、現在シテ方(能の主役)として活躍する喜多流能楽師・塩津圭介氏が大学生時代に立ち上げた団体だ。「若者の、若者による、若者のためのお能」をコンセプトに、学生スタッフが中心となって協賛企業探しから企画・イベント運営・広報活動まで、出演以外のすべてを行っている。
特筆すべきは、学生が1,000円で鑑賞できる価格設定。「若い人たちにとってハードルが高いお能をもっと身近にしたい」という想いから、20年間変わることなく続けられている取り組みだ。
第20回「道成寺」への挑戦
今回上演される「道成寺」は、約250曲ある能の演目の中でも、能楽師がこれを演じて一人前と言われる大曲の一つだ。舞台上に大きな鐘が吊り下げられ、シテがその中に飛び込むという、この曲目ならではの演出がある。衣装と能面で動きも視界も制限される中での危険な演技に加え、鐘の中での素早い衣装替えなど、高度な技術が要求される。
第20回のテーマ「花」に込めた思い
今回のテーマは「花」。これは世阿弥の言葉「時分の花」に由来する。若さゆえの美しさを意味する「時分の花」から、自身の花(独自の魅力)へと成長していくという意味が込められている。「道成寺」は能楽師が一人立ちする際の重要な演目であり、若者能自身の成長と重ね合わせた選曲。若者能の立ち上げから20年、塩津氏が40歳となり、節目としての意味合いもある。
学生が運営する意義
実行委員会のメンバーは、大学での塩津氏の講義をきっかけに参加する学生や、SNSでの募集に応募する学生など、様々なきっかけで集まっているという。活動への参加動機も「海外で日本語を教えた経験から、外国の学生の方が日本文化に詳しいと気づき、まずは自国の文化を知りたいと思った」「和太鼓や武道の経験から能の所作に親近感を覚えた」など様々だ。ちなみに、コロナ禍でオンラインでの打ち合わせが一般化したことで、かつては関東圏中心だったメンバー構成が、全国規模に広がったという。
「学生の視点からコンテンツを考えられることが最大の利点です」と実行委員メンバーは語る。例えば今回の演目「道成寺」は沈黙のシーンが多いため、世界観を守るために未就学児の入場制限が設けられている。だが、小さい頃から能に触れてもらいたいという委員会の想いから、別室でのライブビューイングを設けるなど、柔軟な対応を実現。また、事前解説やLINEでのリアルタイム解説など、初めて能を観る人への配慮も充実させている。
現在、多くの能楽公演では20分程度の解説コーナーが設けられているが、これは若者能が先駆けとなった取り組みだという。デジタル技術を活用したライブビューイングやLINEでの解説など、現代の技術をよく知る学生だからこそできるユニークなアプローチで、能と観客の距離を縮めることに成功している。
「この活動を誰かがしなければ、能がなかなか広まっていかないという危機感があります」と委員会メンバーは語る。「まだまだお能や芸術に触れる機会が少ない子どもたちもいる。義務教育でこういうものを観る機会を取り入れていくなど、できることはたくさんあります」。日本の伝統芸能を次世代に伝えていくため、若者能の挑戦は続く。
第20回若者能「道成寺」
・公演日時:2025年03月15日(土)開場13:00 / 開演14:00
・会場:国立能楽堂
・演目/シテ: 舞囃子『高砂』塩津哲生、仕舞『岩船』塩津希介、能『道成寺』塩津圭介
一般チケットはこちら→https://kita-noh.com/schedule/17274/
学生チケットはこちら→https://20thwakamononoh.peatix.com/view