痛覚過敏が身体への注意と脳ネットワークに及ぼす影響を解明 畿央大学
畿央大学大学院健康科学研究科博士後期課程の森川 雄生氏、大住 倫弘教授らの研究グループは、健康な成人を対象に一時的な痛覚過敏状態をつくり、身体への注意と脳機能の変化を調べました。実験の結果、痛みに敏感になった側の刺激を相対的に早く知覚するようになることや、脳の楔前部におけるネットワーク指標が増加することが明らかになりました。研究成果は学術誌PLOS Oneに掲載されています。
実験的に痛覚過敏状態を誘発し注意と脳活動を評価
痛みが生じている身体部位の情報はほかの感覚情報よりも優先して処理されることがあるものの、痛覚過敏の状態で身体への注意がどのように変わり、脳機能とどう関係するかは十分に解明されていませんでした。
研究グループは、健康な成人の前腕へ高頻度電気刺激(high-frequency stimulation:HFS)を10 trains実施し、一時的な痛覚過敏状態を誘発しました。HFSの前後には、pinprick刺激による痛みへの感受性の評価、64チャンネル脳波計を用いた閉眼安静時脳波の測定、そして左右の前腕へわずかな時間差をつけて刺激し、どちらを先に感じたかを回答させる時間順序判断課題を行いました。
敏感になった部位の知覚が早まり楔前部の指標が増加
課題の結果、HFS後には痛みに敏感になった側の刺激を相対的に早く知覚する方向へ時間順序判断が変化しました。この結果は、痛みに敏感になった身体部位の情報が優先的に処理された可能性を示しています。
さらに安静時脳波から大脳皮質の活動を推定してネットワーク解析を行ったところ、注意や自己・身体に関連した情報処理に関わる楔前部において、θ(シータ)帯域のノード次数(nodal degree)がHFS後に増加していました。ノード次数は、特定の脳領域が他の領域とどの程度つながっているかを示す指標です。解析では、両側楔前部のnodal degreeの変化が大きかった人ほど、HFSを行った側を相対的に早く知覚する方向への変化も大きいという関連が確認されました。一方で、これらの変化と参加者本人が感じた痛みの強さとの間には明確な関連は認められませんでした。
痛みにおける認知的側面の解明に向けた展望

今回の結果から、痛覚過敏によって生じる変化は単なる痛みの増強にとどまらず、敏感になった部位へ注意を向けやすくなる変化を伴い、その背景に楔前部における安静時脳波のネットワーク指標が関わっている可能性が示されました。
痛みの評価では痛みの強さが中心となりがちですが、研究グループは、痛みに伴う変化を理解するには身体のどこに注意が向けられているかという認知的側面を捉える必要があるとしています。今後は対象者を増やして検証を進めるとともに、時間順序判断課題を行っている最中の脳活動を測定し、注意の変化と脳活動の時間関係を詳しく調べる方針です。
論文情報および問い合わせ先
本研究に関する論文情報および問い合わせ先は以下の通りです。
- 論文名:High-frequency stimulation–induced secondary hyperalgesia shifts temporal order judgment and increases precuneus nodal degree in healthy adults
- 著者:Yuki Morikawa,Michihiro Osumi
- 掲載誌:PLoS One. 2026 Sep 25;21(9)
- 問い合わせ先:畿央大学 広報センター(Tel: 0745-54-1601、Fax: 0745-54-1600、E-mail: pr@kio.ac.jp)
本記事は畿央大学の発表をもとに作成されています。
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