東京国立博物館の特別展「旧嵯峨御所 大覚寺」、“兄弟刀”の同時展示から紐解く歴史
2025年1月21日から東京国立博物館 平成館で開催される開創1150年記念 特別展「旧嵯峨御所 大覚寺 -百花繚乱 御所ゆかりの絵画-」。京都・嵯峨の地に広がる大覚寺の歴史と美を東京で堪能できる貴重な機会となる。展覧会の見どころについて、展覧会担当研究員の金井裕子さんに話を聞いた。
皇室の別荘から寺院へ、特別な歴史を持つ大覚寺
大覚寺は、平安時代初期に嵯峨天皇の離宮として造営された嵯峨院を前身とする。その後、貞観18年(876)に皇女・正子内親王の願いにより寺院となった。「普通のお寺とは違い、もともとは皇室の別荘だった場所です。このような成り立ちを持つお寺は、日本国内でも数カ所しかありません」と金井さんは説明する。
大覚寺を初めて訪れる人は、きっとその佇まいに驚くことだろう。寺の周囲には桜や楓などの数多の木。敷地内には、日本三大名月鑑賞地の一つに数えられ、日本最古の林泉式庭園である大沢池を擁する。風光明媚な素晴らしさが感じられ、お寺だということを忘れてしまうほど。元々がいわゆる別荘という成り立ちが起因している。「旧嵯峨御所 大覚寺 -百花繚乱 御所ゆかりの絵画-」では、そうした背景を持つ大覚寺の魅力を、東京で感じられる特別展となっているわけだ。
昭和40年代以来、初めて一堂に会する障壁画群
見どころの一つが、寺内の宸殿と正寝殿を飾る120面を超える障壁画だ。これらの襖絵や障子絵は、昭和40年代に文化財保全のため収蔵庫に保管され、以来、実物が一堂に会することはなかった。「お寺の方々も、これだけの襖絵を一度に見ることは初めて。おそらく誰も見たことがない景色を、今回の展覧会で見ていただくことができます」と金井氏は語る。
「兄弟刀」が京都以外で初めて同時展示
展覧会のもう一つの目玉が、清和源氏に代々継承された「兄弟刀」の同時展示だ。大覚寺所蔵の「太刀 銘 □忠(名物 薄緑〈膝丸〉)」と、北野天満宮所蔵の「太刀 銘 安綱(名物 鬼切丸〈髭切〉)」(いずれも重要文化財)が、京都以外では初めて同じ場所で展示される。
この実現には、大覚寺と北野天満宮の長年の縁が関係している。大覚寺が寺院となる際、菅原道真が尽力したことから、境内には菅公を祀る社が設けられた。以来、両者は長きにわたり交流を続けてきた。今回の展示は、そうした歴史的なつながりがあってこそ実現したという。
多様化する刀剣ファン
近年、刀剣展示の人気は高まる一方だ。「20年前は圧倒的に男性の来場者が多かったのですが、この10年ほどで様相が変わってきました。ゲームや舞台など、さまざまなコンテンツの相乗効果で女性ファンが増え、今では老若男女問わず人気があります」と金井さんは説明する。
ただし今回の展示は、単なる刀剣展示ではない。「刀剣自体を見ていただくのはもちろんですが、それぞれの刀が背負ってきた歴史や、それを取り巻く空気感も感じていただきたい。襖絵に囲まれた空間の中で、描かれた当時の人々に思いをはせたり、体感したりして楽しんでいただければ」と金井さん。
皇室の別荘から始まった特別な寺院の歴史と、そこに伝えられてきた美術品の数々。本展では、大覚寺という場所が持つ独特の魅力を、さまざまな角度から堪能することができそうだ。
【展覧会情報】
開創1150年記念 特別展「旧嵯峨御所 大覚寺 -百花繚乱 御所ゆかりの絵画-」
会期:2025年1月21日(火)~3月16日(日)※会期中、一部作品の展示替えを実施。
前期展示:1月21日(火)~2月16日(日)/ 後期展示:2月18日(火)~3月16日(日)
会場:東京国立博物館 平成館
休館日:月曜日(ただし2月10日、24日は開館)、2月25日(火)
開館時間:午前9時30分~午後5時 ※入館は閉館の30分前まで
https://tsumugu.yomiuri.co.jp/daikakuji2025/