富士通、SnVセンターを用いたダイヤモンドスピン方式量子コンピュータを開発
富士通株式会社は、ダイヤモンドスピン方式量子コンピュータのプロトタイプを開発したと発表しました。本プロトタイプは、従来比約10倍相当の高輝度なダイヤモンド結晶中のスズ-空孔(SnV)センターを量子ビットとして用いており、チップ上に集積した形態の量子コンピュータとして世界初(2026年9月富士通調べ)の構成となります。超伝導方式の動作温度(典型的には約-273.13℃)より高い約-271.6℃での動作を確認し、ハイブリッド量子コンピューティングプラットフォーム「Fujitsu Hybrid Quantum Computing Platform」経由での利用も実証しました。
SnVセンターの採用と高い動作温度の実現

量子コンピュータの実用化に向けて様々な方式が研究される中、ダイヤモンドスピン方式は格子欠陥構造(カラーセンター)を量子ビットとして利用します。量子状態を安定的に保ちやすいダイヤモンドの特性により高いフィデリティを特長とし、光を用いた量子モジュールの接続による拡張性を持っています。
従来は窒素-空孔(NV)センターを用いるのが一般的でしたが、本プロトタイプでは外部環境のノイズの影響を受けにくいSnVセンターに着目しました。これにより、約-271.6℃という超伝導方式よりも高い温度環境での動作を可能にしています。
開発された3つの要素技術
プロトタイプの作製にあたり、以下の技術が開発されました。
- スケーラブルな量子コンピューティングチップを可能にする異種材料接合技術と薄層化技術
スズをイオン注入した高品質ダイヤモンド基板とアルミナ・酸化膜付きシリコン基板を接合し、硬いダイヤモンドを量子コンピューティングチップに適した数百ナノメートルまで薄層化する技術を開発しました。
- SnVセンター向けフォトニクス集積回路作製技術
SnVセンターを含むナノメートルサイズのダイヤモンド結晶と、単一の光子を取り出すためのアルミナの光導波路を集積したフォトニクス集積回路の作製技術を開発しました。ダイヤモンドの加工には国立大学法人東京大学との共同研究成果を活用しています。
- ダイヤモンドスピン方式向け量子回路変換・量子ビット制御技術
光・マイクロ波・RF波を組み合わせて量子ビットを制御するため、量子回路をダイヤモンドスピン方式向けの制御命令に変換する機構を開発し、「Fujitsu Hybrid Quantum Computing Platform」からの制御を実現しました。
今後のロードマップと研究体制
本成果は、富士通とオランダのDelft University of Technology(デルフト工科大学)傘下の研究機関QuTechが2020年より進めてきた共同研究成果に基づいています。QuTechのジェネラルディレクターであるDr. Kees Eijkelは、共同研究の重要なマイルストーンとしてプロトタイプを発表できたことに触れ、今後も連携を深めて次世代の技術開発をリードしていく姿勢を示しています。
富士通は、2027年を目標に複数量子モジュールから成るダイヤモンドスピン方式量子コンピュータのプロトタイプ開発や超伝導方式との接続技術の開発を進めます。さらに、2030年度に250論理量子ビット、2035年度に1,000論理量子ビット機を実現するというロードマップのもと、大規模な誤り耐性量子コンピュータの実現に向けた研究を推進するとしています。
本研究の一部は、文部科学省「マテリアル先端リサーチインフラ」事業(課題番号JPMXP1225NM0096)の支援を受けています。また、QuTechとの共同研究は、Holland High Techによる研究開発助成およびオランダ経済省による研究・イノベーション助成を活用しています。
本記事は富士通株式会社の発表をもとに作成。
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