非鉛の巨大負熱膨張物質を開発 東京科学大など、収縮率6.1%を達成
東京科学大学総合研究院の研究グループは、ペロブスカイト型酸化物コバルト酸ビスマス(BiCoO3)を母物質とした、鉛を含まない巨大負熱膨張物質を開発したと発表した。化学結合の切断と再結合を伴う再構成型相転移を利用し、非鉛の負熱膨張物質としては最大となる6.1%の体積収縮を達成した。温度上昇に伴う部材の膨張を相殺する材料として、光通信や半導体製造分野での活用が期待されている。
有害物質を含まない熱膨張抑制材への需要
多くの物質は温度が上昇すると体積が増大するが、光通信や半導体製造など精密な寸法管理が求められる分野では、わずかな熱膨張が位置ずれや接合界面の剥離といった問題を引き起こす。例えばLSI(大規模集積回路)では、シリコンチップと基板、充填剤の間で生じる熱膨張の違いが信頼性低下につながるため、温度上昇で収縮する「負熱膨張」物質によって膨張を相殺する試みが進められている。
研究グループは過去に9.3%の体積減少を示すバナジウム酸鉛(PbVO3)系材料を開発していたが、有害な鉛を含む点が実用化に向けた課題となっていた。
再構成型相転移により非鉛で最大6.1%の体積収縮
今回の研究では、鉛を含まないBiCoO3のビスマス(Bi)サイトを、ランタンやプラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウムといったランタノイド元素で置き換えた置換体を高圧合成により作成した。大型放射光施設SPring-8のビームラインを用いた放射光X線回折実験で結晶構造の変化を検証したところ、常圧下での昇温によって極性正方晶相から非極性直方晶相への相転移が生じることが判明した。
この変化は化学結合の切断と再結合を伴う再構成型相転移であり、最大で体積収縮率6.1%の負熱膨張を示した。この数値は、鉛を含まない負熱膨張物質としてはこれまでで最大となる。
可逆的な相転移の活用と今後の研究方針
再構成型相転移は大きな体積減少が期待できる一方、冷却時に元の相に戻らない不可逆な変化である場合が多く、負熱膨張の機構としては注目されてこなかった。しかし今回の物質では降温過程で低温相への逆転移が確認され、一部の組成では完全な可逆性を示した。
正方晶相と直方晶相の体積差は14%あることから、研究グループは体積収縮率がさらに増加する可能性があるとしている。今後は走査透過電子顕微鏡やブラッグコヒーレントX線回折イメージングなどを活用し、相転移時のドメイン組織の変化を明らかにすることで、収縮率のさらなる向上を目指す。
研究体制と論文情報
本研究成果は、現地時間9月4日付の学術誌「Advanced Science」に掲載された。研究には東京科学大学のほか、神奈川県立産業技術総合研究所、高輝度光科学研究センター、京都大学、熊本大学などの研究者が参加した。
- 掲載誌:Advanced Science
- 論文タイトル:6.1% Volumetric Negative Thermal Expansion Induced by the Reversible Reconstructive Phase Transition in Pb-Free Bi1−xLnxCoO3 (Ln: Lanthanoid)
- DOI:10.1002/advs.77022
本記事は東京科学大学および熊本大学の発表をもとに作成。
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