国立遺伝研と九工大、昆虫の捕食が酵母の胞子形成を維持する選択圧になると解明
国立遺伝学研究所の仁木宏典特命教授らと九州工業大学の清家泰介准教授による研究グループは、日本各地から分離したジャポニカス分裂酵母(Schizosaccharomyces japonicus)が栄養豊富な環境でも高頻度に胞子形成を行う性質について、昆虫との共生による適応進化であることを明らかにしました。
実験室での培養では増殖上不利となるこの性質が、ショウジョウバエに捕食された際に胞子が消化管を通過して生き残ることで、集団内で維持・選択されることが実証されました。本研究成果は、国際科学雑誌「Proceedings of the National Academy of Sciences USA(PNAS)」に2026年10月1日(米国時間)にオンライン掲載されました。
栄養豊富でも胞子をつくる特殊な性質
酵母は通常、栄養が豊富な環境では無性生殖によって細胞数を増やし、窒素などの栄養が乏しくなると有性生殖を行って環境ストレスに強い胞子をつくります。しかし、日本各地から分離された野生ジャポニカス分裂酵母の多くは、栄養が豊富な環境でも高頻度に接合・減数分裂・胞子形成を行う「hc⁹⁰(恒常的胞子形成)形質」を示します。
栄養豊富な培地で繰り返し培養する実験では、増殖を止めて有性生殖を行うhc⁹⁰株は15回継代すると5%未満まで減少し、酵母にとって大きなコストになることが確認されました。

研究グループがhc⁹⁰株をショウジョウバエに与えてフンから生きた酵母を回収したところ、栄養細胞の多くは消化されたのに対し、胞子は消化管を通過して生き残りました。ショウジョウバエを介して10世代継代させた酵母集団では、hc⁹⁰形質の割合が高いまま維持されました。
さらに、hc⁹⁰形質がわずかしか存在しない混合集団をショウジョウバエに与えた実験では、消化管の通過後にすべての実験集団でhc⁹⁰株が増加し、ある集団では0.3%から95.3%まで増加しました。突然変異ライブラリーを用いた実験でも同様に、栄養豊富な培地で胞子形成できる株がハエの通過によって濃縮され、捕食と消化が生態学的な選択圧となっていることが示されました。
複数遺伝子の変異による形質発現の仕組み
ゲノム解析および遺伝解析の結果、hc⁹⁰形質は単一の遺伝子変異によるものではなく、胞子形成を制御する複数の遺伝子(byr2、mcs4、ste6、ste11、tor2、win1)の変異の組み合わせ(エピスタシス)によって生じることが明らかになりました。
動物に食べられるという現象が消化に耐える胞子をつくる酵母を選択し、増殖上は不利な有性生殖という生活史戦略を自然界で維持する要因となり得ることが実験的に示されています。
研究体制と論文情報
本研究は、国立遺伝学研究所 遺伝形質研究系と九州工業大学 大学院情報工学研究院 生命情報工学研究系による共同研究として実施されました。
- 論文タイトル: Constitutive sporulation in wild fission yeast enhances insect-mediated survival(日本語: 野生分裂酵母の恒常的な胞子形成は、昆虫を介した生存を高める)
- 著者: Hironori Niki, Shunsuke Noda, Keigo Fujiwara, Takuya Miyake, Koichiro Akiyama, Taisuke Seike
- DOI: https://doi.org/10.1073/pnas.2607475123
- 支援: 情報・システム研究機構「戦略的研究プロジェクト」(2023-SRP-09)、遺伝研のNIG-JOINT(37A2025)、JST 戦略的創造研究推進事業 さきがけ(JPMJPR24N9)
- 系統提供: ナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)
本記事は国立遺伝学研究所および九州工業大学の発表をもとに作成されています。
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