千葉大学や理研、転写因子制御データベースTFActProfilerを構築
千葉大学大学院医学研究院の川上英良教授や理化学研究所らの研究グループは、転写因子がどの遺伝子をどの程度活性化または抑制するかを約260万件分まとめたデータベース「TFActProfiler」を構築した。あわせて、特定の転写因子の働きを操作した際に細胞全体の状態がどう変化するかを予測する数理手法を開発した。疾患に伴う細胞状態の変化に関与する転写因子を明らかにし、治療につながり得る転写因子の阻害や活性化の予測に役立つことが期待されている。
開発の背景と従来手法の課題
ヒトの細胞には約2万個の遺伝子があり、その働きを調節する重要な因子の一つが転写因子である。がんや感染症、糖尿病など様々な疾患で転写因子の働きが変化することから、その変化を捉えることは疾患メカニズムの解明や治療標的の発見につながる。
しかし、転写因子活性を直接測定することは容易ではなく、多数の転写因子を操作してmRNAに及ぼす影響を網羅的に調べることも現実的には困難とされていた。そのため、RNA-seqデータからの転写因子活性や遺伝子発現の変化を予測する計算手法が開発されてきたが、精度と網羅性の両立が難しい点や、予測に追加の学習データが必要で十分な性能が得られない場合がある点、推定結果の不確実性を評価しにくい点といった課題が存在していた。
TFActProfilerの特徴と成果
研究グループは今回、転写因子が標的遺伝子を活性化・抑制する作用を数値化し、2,606,176件の制御関係をまとめたデータベース「TFActProfiler」を構築した。これにより、RNA-seqデータから転写因子活性を網羅的かつ高精度に推定できることを示した。
さらに、追加データなしで転写因子を活性化・抑制した際の遺伝子発現応答を予測できるほか、追加の学習データが利用可能な場合には従来の機械学習モデルと同等以上の予測精度を達成した。また、転写因子活性や遺伝子発現変化の推定結果について、その不確実性を定量的に評価する方法も導入している。
疾患メカニズム解明や創薬標的探索への展望
研究グループによると、本研究により疾患に伴う転写因子活性の変化を推定し、特定の転写因子を活性化・抑制した際の遺伝子発現の変化を予測できるようになったという。今後は推定・予測精度と網羅性をさらに高めることで、観察データから実験的に検証可能な仮説を生み出すための基盤として、疾患メカニズムの解明や創薬標的の探索への活用が期待されるとしている。
論文情報と公開ツール
本研究成果は、2026年9月15日に学術誌Nucleic Acids Researchで公開された。関連情報および公開ツールは以下の通り。
- 論文タイトル:A transcription factor regulatory atlas for activity inference and perturbation prediction
- 著者:Hikaru Sugimoto, Koki Tsuyuzaki, Zhaonan Zou, Shinya Oki, Tazro Ohta, Eiryo Kawakami
- 雑誌名:Nucleic Acids Research
- DOI:10.1093/nar/gkag897
- Webアプリ:https://tfact.wpgsa.org/
- プログラム:https://github.com/HikaruSugimoto/tfactprofiler
- 支援プロジェクト:JSTムーンショット型研究開発事業(JPMJMS2025)、革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)「免疫記憶の理解とその制御に資する医療シーズの創出」外部環境刺激による組織炎症記憶形成機構の解明と難治性アレルギー性疾患の病態制御治療戦略の基盤構築(JP23gm1810009)、JSPS科研費(25K23918、23K11312)
本記事は千葉大学大学院医学研究院および理化学研究所らの発表をもとに作成しています。
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