自動車業界の価格転嫁の現状と課題

自動車業界のサプライチェーンにおいて、適正な価格転嫁に向けた取り組みが加速している。日本自動車工業会(自工会)は2024年5月23日、部品メーカーを束ねる日本自動車部品工業会と連携し、サプライチェーン全体で適正な取引を推進することを表明した。

帝国データバンクの調査によると、国内自動車メーカー8社(トヨタ自動車、本田技研工業、日産自動車、スズキ、マツダ、SUBARU、三菱自動車工業、ダイハツ工業)を頂点としたサプライチェーン企業は全国に約6万社存在し、取引総額は約42兆円に上ることが判明した。これは2023年度の日本の名目GDP(国内総生産)の約1割に相当する規模だ。

しかし、サプライチェーン企業における価格転嫁の状況は芳しくない。2024年2月時点の調査では、コスト上昇分を「全く価格転嫁できていない/価格転嫁するつもりはない」と回答した企業が11.9%に上った。特に、日産自動車のサプライチェーン企業のうち、三次取引先以降(Tier3以降)では16.4%が価格転嫁できていないと回答しており、大手3社(トヨタ自動車、本田技研工業、日産自動車)の中で最も高い割合となった。

自動車産業のサプライチェーンは複雑化しており、大手企業でも全容把握が難しい状況だ。これまで自動車メーカーがサプライチェーン全体での価格転嫁を推進してきたものの、末端の中小下請け企業までその影響が及びにくかったことが、価格転嫁が進まない一因となった可能性がある。

自工会は、原材料費やエネルギー費の上昇に対し適切なコスト増加分の全額転嫁を目指すことや、「適正取引の推進と生産性・付加価値向上に向けた自主行動計画」にこうした方針を盛り込むなど、適正な取引環境の実現に向けた姿勢を明確に示した。今後は、サプライチェーン末端の企業にも必要なコスト増分の価格転嫁を促す動きが高まるとみられる。自工会のこうした取り組みが、幅広い業界でサプライチェーン全体の価格転嫁を実現するモデルケースとなるか注目される。