地域メディア「じもとわーく」オープン、デジタル畑の経験者が「生の声」にこだわる理由
外資系コンサルタントでITコンサルティングに従事し、その後エンジニアとしてWebアプリケーションの開発やIT系のジャーナリストといったキャリアを持つ師田賢人さん。デジタル技術を知り尽くした人物が、なぜ「生の声」を届けるアナログな地域メディア『じもとわーく』を立ち上げたのか。
デジタルの限界を知るからこそ見えた、アナログの可能性
「デジタルを知っているからこそ、その限界も見えてきました」。「じもとわーく」を運営するHarmonic Societyの代表・師田さんはそう語る。テクノロジーが進化すれば進化するほど、逆説的にアナログな価値が際立つという。
実際、地域の事業者と接する中で、師田さんは商習慣における人と人とのつながりの根強さを実感してきた。特に日本では、デジタル化だけでは解決できない領域が確かに存在する。紹介や口コミといったアナログなつながりが、いまだ大きな影響力を持っているという。
地域の中小企業が抱える課題の一つは、その魅力が十分に伝わっていないことだと師田氏は指摘。250名以上の経営者への取材経験から、事業者自身では気づいていない価値を、丁寧な対話を通じて引き出せることを知っていた。
「水面に石を投げてその波紋をすくうように、対話を通じて企業の新しい魅力を発見できる。それはAIには真似できません」
対話から生まれる新たな発見と手応え
クラウドファンディングを通じて手応えも得ている。千葉県の起業家10名を取材した冊子プロジェクトは目標金額を達成。取材を受けた事業者からも、記事を通じて新たなつながりが生まれたという声が寄せられているという。
師田さんの考えは、単なる懐古的なものではない。むしろ、AIやデジタル技術の発展を熟知しているからこそ、現場での「生の声」の重要性を確信している。Z世代があえてフィルムカメラを選ぶように、デジタル時代だからこそ、情報が削ぎ落とされていない「生っぽさ」へのニーズは確実に存在するのだと説く。
アナログとデジタルの共存を目指して
『じもとわーく』は、当面は千葉県の事業者を中心に取材を展開していく。そして、仮に事業が拡大したとしても、クラウドソーシングなどで安易にライターを募集することは考えていないという。「信頼できる実力のあるライターを個別に声がけしていく」と師田さんは語る。アナログな取材の質を担保することで、デジタルでは代替できない価値を提供し続けることを目指している。
「デジタルで効率化できることは効率化する。でも、その先にある本質的な価値を届けるには、アナログな取材と対話が欠かせません」。テクノロジーと人間性の両方を知る師田さんだからこそ見えてきた、一次情報にこだわるメディアの可能性がそこにある。地域の事業者と生活者をつなぐ架け橋として、『じもとわーく』の挑戦は始まったばかりだ。
地域メディア「じもとわーく」
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