保護犬たちの「今」を映し出す、映画『吾輩は保護犬である』が伝えたいこと

今年5月から全国を巡回上映中のドキュメンタリー映画『吾輩は保護犬である』。保護わん(一般社団法人 保護犬のわんこ)によって制作され、70から200席規模の小規模劇場での上映だが、その多くで満員御礼となるなど、反響を呼んでいる。

映像作家として活躍してきた巽 祐一郎さんは、現在、一般社団法人 保護犬のわんこの代表を務め、この映画のメガホンも取った。クラウドファンディングでの資金調達からスタートし、コロナ禍の影響で4年の歳月をかけてこの映画を完成させた。子供の頃は獣医を志望していたという巽さんは、映像の仕事が一段落したこともあり、子供の頃に飼っていた犬たちへの恩返しとして、保護犬問題に取り組み始めた。

保護犬を取り巻く現実

引っ越しや、飼育が困難になったなど、さまざまな理由で新しい飼い主を必要とする犬たちがいる。「保護犬=かわいそう、という捉え方ではなく、家族として迎えられる存在として見てほしい。こんなかわいい子たちがいるんだよ、ということを伝えていきたい」と巽さんは語る。

保護犬を第一の選択肢に

同法人は「犬を迎えるとき、保護犬を第一の選択肢に」という想いから、写真集やスタンプ、かるたの制作など、さまざまな形で啓発活動を展開。環境省と文部科学省の後援を得たポスターは、全国2万1000校の小中高校に掲示されている。今回の映画も、そうした啓蒙活動の一つだ。

なぜ『吾輩は保護犬である』なのか

こうした問題を扱うドキュメンタリーは、その“悲惨さ”にフォーカスしがちだが、『吾輩は保護犬である』は悲惨な状況が一切出てこない。保護犬がいるおかげで自分は救われたという人たちが登場し、人と犬がどのように関わり、お互いに支え合って生きているかをポジティブに伝えている。保護犬問題を悲観的に捉えるのではなく、人と犬が巡り合う機会として捉えてほしいからだ。

また、タイトルは夏目漱石の『吾輩は猫である』をもじったもの。「保護犬に関心のある人だけでなく、なるべく一般の人にも見てもらいたい」という想いから、エンターテイメント性を意識して名付けられた。

そして同法人は、特に子どもたちへの啓発活動に力を入れている。全国の学校へのポスター掲示やかるたの制作は、その一環だ。「命の大切さを感じ、動物への愛情を育むことで、将来的な意識の変化につなげたい。子どもたちが大人になった時に、動物との向き合い方も変わっていく。そう信じて種を蒔いているわけです」と巽さん。

犬を迎えるときの選択を見直す

現在の保護犬問題について、「安くかわいい子犬を」という需要が、結果として大量繁殖の構造を生み出してしまっているのだという。「今、保護犬がたくさんいます。まずはその子たちに目を向けてほしい。家族を迎えるとき、保護犬という選択肢を第一に考えてもらいたい」(巽さん)。こうした提案の背景には、需要と供給の関係を見直すことで、無秩序な繁殖の抑制につなげたいという想いがある。

解決には長期的な視点も

現在、保護犬を受け入れる施設の多くが満杯に近い状態という。例えば、東京都などでは殺処分ゼロを掲げているが、それは保護団体が懸命に引き取りを行っている結果でもあり、その受け入れ先が限界に近づいているという現実もある。

「今目の前にある命を救うことは大切ですが、それだけでは根本的な解決にはなりません。保護活動をしても、新たな保護を必要とする犬たちが生まれてくる状況が続いているからです」と巽さんは指摘する。解決には、避妊去勢手術の実施や、安易な繁殖の抑制など、さまざまな取り組みが必要だという。

価値観を変えていくために活動する一般社団法人 保護犬のわんこは、動物との関わり方や命の大切さ、そういった根本的な意識から変えていかなければ、この問題は解決しないと考えている。

映画は東京、茨城、沖縄、京都、愛知、埼玉、福岡、大阪など各地で上映され、12月22日には東京・お台場で300人規模の上映会も予定されている。すでに見た人からは「動物との関係性について考えさせられた」「新しい家族との出会い方を知った」といった感想が寄せられているという。

保護わん(一般社団法人 保護犬のわんこ)ホームページ
http://www.bbtv.jp

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