九工大など、大腸菌のアンモニウム輸送機構を解明 窒素不足時の戦略明らかに
国立大学法人九州工業大学大学院情報工学研究院の前田 和勲准教授や倉田 博之教授らによる国際共同研究グループは、大腸菌のアンモニウム輸送と代謝を再現するシミュレーションモデルを開発しました。輸送タンパク質AmtBによるアンモニウム輸送において細胞膜の電位差が果たす作用を解明したほか、大腸菌がアンモニウムの乏しい環境でエネルギー効率を犠牲にして取り込みを優先し、速い増殖を維持していることを突き止めました。研究成果は国際学術誌「npj Systems Biology and Applications」に2026年7月24日付で掲載されています。
6種類の仮説モデルをコンピュータ上で比較検証
窒素はタンパク質やDNAをつくるために欠かせない元素であり、多くの微生物は窒素源としてアンモニウム(NH4+)を利用します。環境中のアンモニウムが減少した際、大腸菌は細胞膜の輸送タンパク質AmtBを使ってアンモニウムを取り込みます。
研究グループは、AmtBによる輸送と代謝を一体として表すシミュレーションモデルを構築しました。膜電位が「AmtBとアンモニウムの結合」に作用する3つのモデルと、「AmtBの構造変化」に作用する3つのモデルの計6種類の仮説に基づくモデルを用意し、大腸菌の増殖やアンモニウム取り込みに関する実験データと比較しました。
膜電位はAmtBとアンモニウムの結合に作用
モデルを比較した結果、膜電位がAmtBとアンモニウムの結合に作用するモデル群は、構造変化に作用するモデル群よりも28倍強く支持されました。特に、膜電位が細胞内側での結合に影響するモデルが最も有力と判明しました。
この結果を既存の立体構造情報と組み合わせることで、AmtB内部でアンモニアとプロトンの流れが時間的・空間的に連携する新しい輸送機構が示唆されています。
厳しい環境ではエネルギー効率より増殖維持を優先
シミュレーションの結果、AmtBによる輸送には多くのエネルギーが必要であることが判明しました。大腸菌はエネルギー消費を抑えるため、アンモニウム濃度がやや低い場合は代謝を活性化して対応し、さらに濃度が低下した場合にのみAmtBによる輸送を活性化するという段階的な制御を行っています。
通常時はエネルギー効率を優先しながら、環境が厳しくなると増殖維持を優先する戦略をとっており、今後は微生物を用いたアミノ酸生産など有用物質生産の効率化につながることが期待されます。
発表論文と研究支援体制
本研究は、国立大学法人九州工業大学大学院情報工学研究院の前田 和勲准教授・倉田 博之教授、英国ストラスクライド大学のArnaud Javelle講師、オランダのアムステルダム自由大学のHans V. Westerhoff教授・Fred C. Boogerd助教らによる国際共同研究グループによって実施されました。
発表論文の詳細は以下の通りです。
- タイトル:Computer experimentation reveals mechanisms for signaling and coupled transport that trade efficiency for robust growth
- 著者名:Kazuhiro Maeda, Hiroyuki Kurata, Arnaud Javelle, Hans V. Westerhoff & Fred C. Boogerd
- 雑誌:npj Systems Biology and Applications
- DOI:10.1038/s41540-026-00793-1
本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業 基盤研究(C)(JP22K12247)および基盤研究(B)(JP23K24943)、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 さきがけ(JPMJPR20K8)およびCREST(JPMJCR20S1)の助成を受けたほか、アムステルダム自由大学(VU)理学部システム生物学グループ、公益財団法人天野工業技術研究所から支援を受けています。
本記事は国立大学法人九州工業大学の発表をもとに作成しました。
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