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徳島大学、口腔がん初期における抗腫瘍免疫誘導の仕組みを解明

徳島大学大学院医歯薬学研究部の工藤保誠教授や毛利安宏准教授らの研究グループは、口腔がんで高頻度にみられる「TP53」と「CDKN2A」の遺伝子異常の組み合わせが、発がん初期の免疫環境を変化させる仕組みを明らかにしました。ヒトの変異を再現した遺伝子改変マウスを用いた実験により、特定の遺伝子異常パターンが抗腫瘍免疫を誘導し、がんの悪性化を遅らせる可能性が示されました。本研究成果は2026年8月15日付で学術誌「Oncogene」のオンライン版に掲載されています。

頭頸部扁平上皮がんでは、がん抑制遺伝子であるTP53とCDKN2Aの異常が高頻度にみられます。TP53はDNA損傷応答を担うp53を、CDKN2Aは細胞周期を抑えるp16INK4Aとp14ARF(マウスではp19Arf)をコードし、p53経路とRB経路を介して異常細胞の増殖を防いでいます。従来の両遺伝子の機能を完全に失わせたマウスモデルでは口腔がんが十分に再現されず、機能が部分的に保たれることが多いヒトの病態に合わせたモデルが求められていました。

研究グループは、ヒト頭頸部がんでみられるCDKN2Aのナンセンス変異を再現したCdkn2a変異マウスと、Trp53機能欠失変異マウスを作製して交配しました。飲水中に変異原「4NQO」を加えて口腔発がんを誘導することで、遺伝子異常の組み合わせと発がん過程を比較できるモデルを確立しました。

p53とRBの不均衡がcGAS–STING経路を介して抗腫瘍免疫を誘導

発がん刺激後の早期口腔上皮をRNAシーケンスで網羅的に解析したところ、Trp53とCdkn2aの両方にヘテロ接合性変異(片方のアリルのみの変異)をもつマウスでは、DNA感知に関わるSting1やAim2、I型インターフェロン応答遺伝子、炎症性サイトカインやケモカインが増加していました。これは、p53経路の機能が低下する一方でRB経路の機能が保たれるというシグナルの不均衡により、自然免疫系の「cGAS–STING経路」が活性化したことを示しています。

この経路の活性化に伴い、細胞傷害性T細胞やNK細胞などの抗腫瘍免疫を担う細胞が口腔上皮へ優先的に集積しました。STING阻害薬「H-151」を投与すると関連遺伝子の発現とT細胞の浸潤が低下したことから、この免疫応答にSTINGが機能的に関与していることが確認されました。

免疫活性化による悪性化遅延とヒト臨床データとの関連

Trp53とCdkn2aの両方にヘテロ接合性変異をもつマウスでは、他の遺伝子型と比べて浸潤がんへの進展が相対的に遅れる傾向がみられました。この遅延には、発がん初期に形成された免疫活性的な環境が悪性化を抑えた可能性が示されています。なお、進行がんにおいては遺伝子型にかかわらずT細胞浸潤が減少しており、免疫活性化は病期によって変化することも示唆されました。

さらに、公開データベース「TCGA」にある頭頸部がん患者の遺伝子発現データを解析した結果、TP53とCDKN2Aの遺伝子異常の組み合わせによって全生存期間が6群間で有意に異なることが確認されました(global log-rank P=0.0027)。一部の複合異常群では部分的上皮間葉移行(partial-EMT)関連遺伝子の発現が高く、抗腫瘍免疫細胞の浸潤スコアが低下していました。

今後の展望と課題

本成果は、がん抑制遺伝子の組み合わせパターンが発がん初期の免疫応答を決定することを示したものです。将来的には、遺伝子状態と免疫状態を組み合わせた口腔前がん病変の進展リスク評価や、治療選択への活用が期待されます。

一方で、本研究は特定時点のマウスおよび患者データに基づいているため、研究グループは今後、ヒトにおける時系列での免疫変化やSTING活性化の適切な時期、その治療効果についてさらなる検証が必要だとしています。

本記事は徳島大学の発表をもとに作成

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