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オトメアオイの花の香り放出、ハエの活動と同調 科博などの研究チームが発見

国立科学博物館や横浜市立大学などの共同研究チームは、伊豆・箱根地域に固有の植物「オトメアオイ」が放つ花の香りを1秒単位の時間分解能で観測しました。その結果、発酵した果実や腐敗物に擬態しているとみられる香りが、送粉者であるハエ類の活動パターンに同調して放出されていることを突き止めました。この成果は、植物の花の香りが物質組成だけでなく放出の時間的パターンにおいても柔軟に適応進化しうることを示すものです。

擬態によってハエを誘引するオトメアオイの送粉戦略

ウマノスズクサ科カンアオイ属のオトメアオイは夏に開花し、果実のような発酵臭を放ちます。香りを分析した結果、臭いにおいの原因となる含硫黄成分ジメチルジスルフィドと、熟した果実に典型的なアルコールやカルボニル化合物が混在していることが判明しました。

2016年から2023年までの8年間にわたる野外観察により、主要な送粉者はノミバエ科の昆虫の1種(Megaselia sp.)であることが確認されました。このノミバエは花の中に産卵するものの幼虫は内部で育たないため、花が本来の産卵場所に擬態して送粉に利用していると考えられています。また、ショウジョウバエの仲間も頻繁に訪れていましたが、送粉者としての貢献度は判明していません。野外でのトラップ実験では、腐った果実単独ではショウジョウバエのみを誘引した一方、ジメチルジスルフィドを添加することでノミバエも誘引されることが確認されました。

香りの放出パターンを1秒単位の高解像度で観測

野外に設置したカメラによるタイムラプス撮影の結果、アリや甲虫などの送粉に寄与しない昆虫が昼夜問わず訪れるのに対し、小型のハエは昼行性のパターンで花を訪れていることが分かりました。

研究チームは栽培株を用い、同じ花から24時間にわたり2時間おきに香りを採取してガスクロマトグラフィー質量分析法(GC-MS)で分析したところ、果実のような香りの主要成分が夜間には消失していることを確認しました。さらに、プロトン移動反応質量分析法(PTR-MS)を用いて1秒単位で詳細に測定した結果、主要な香り成分は日中に大量に放出され、夜間には放出が完全に停止していることが判明しました。

香りの放出量の時間分布と昆虫の訪花頻度の時間分布の重なりを定量的に解析した結果、主要な香り成分の全てにおいて、ノミバエやショウジョウバエなどハエ類の訪花パターンとのみ同調が見られました。他の昆虫の訪花とは同調しておらず、花の香りの放出タイミングが特定の送粉者の誘引に適応した形質であることが示されました。

研究チームは今後、他のカンアオイ属における香りの放出タイミング調整の有無や、放出がどのような遺伝的メカニズムで制御されているかといった課題に取り組み、適応進化のメカニズムの解明を目指すとしています。

研究発表の概要

  • 発表論文:Synchrony of floral volatile emission with diurnal pollinators of possible decomposition mimic Asarum savatieri (Aristolochiaceae)
  • 著者:Valchanova, A. K., Kakishima, S., Sekimoto, S., Chang, J.-T., Okuyama, Y.
  • 掲載誌:Annals of Botany(2026年10月7日付)
  • 論文URL:https://doi.org/10.1093/aob/mcag325
  • 研究参画機関:国立科学博物館(館長:真鍋 真、研究主幹:奥山雄大)、横浜市立大学、昭和医科大学、台湾大学
  • 支援:科研費(JP19H03292)、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業さきがけ(JPMJPR21D3, JPMJPR21D7)

本記事は国立科学博物館の発表をもとに作成しました。

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