東京農工大ら、オーストンウミツバメ尾腺分泌物の性差と季節変化を解明
東京農工大学大学院農学研究院の永岡謙太郎教授らの研究グループは、伊豆諸島で繁殖するオーストンウミツバメの尾腺分泌物を分析し、化学組成に性差や季節変化があることを明らかにした。調査の結果、雌雄ともに育雛期において抗菌作用を持つ脂肪族アルコールの一種「1-hexadecanol」の割合が上昇することが確認された。研究成果は鳥類学専門誌「IBIS」に掲載されている。
嗅覚に優れたウミツバメ類と尾腺分泌物の研究背景
鳥類の尾腺から出る分泌物は、羽づくろいによって全身に塗り広げられ、羽毛の構造維持以外の機能も持つ可能性が指摘されている。特に生涯の大半を海上で過ごすミズナギドリ目の海鳥は嗅覚が優れており、採餌や個体識別に匂いを用いているとされる。
その一種であるウミツバメ類は特有の体臭を持つことが知られており、尾腺分泌物が匂いの素としてコミュニケーションに関わっている可能性が考えられていた。しかし、その化学組成や性差、季節による変化については詳しい研究が限られていた。
育雛期における特定の化合物の上昇を確認
研究グループは、日本最大の繁殖地とされる伊豆諸島神津島の祇苗島において、2023年から2025年の繁殖期に環境省の許可を得て捕獲したオーストンウミツバメ成鳥計66羽から尾腺分泌物と体羽を採取した。ガスクロマトグラフィ質量分析計による分析とDNAによる性別判別を実施したところ、尾腺分泌物から炭化水素や脂質エステル、脂肪族アルコールなど93種の化合物が同定された。
分泌物の組成には有意な季節変化がみられ、オスでは繁殖初期の前後で変化する化合物が多かった一方、メスでは明確な傾向が認められないなど、性別による違いが確認された。さらに雌雄共通の変化として、育雛期に「1-hexadecanol」が上昇することが判明した。この物質は葉などに含まれる幅広い抗菌作用を持つ成分で、他種では環境中の植物の匂いに同化して存在を隠す役割も報告されている。


匂いによる防御機能や生態解明への展開
ウミツバメ類では育雛期に親鳥が採餌に出てヒナが巣に残されるため、1-hexadecanolが匂いのカモフラージュとして機能している可能性があるとしている。今回の調査は成鳥を対象としているためヒナへの伝播は未確認であり、今後の詳細な検証が課題となる。
研究グループは今後、餌や内分泌物質、尾腺の細菌叢といった変化要因の調査を進めることで、ウミツバメ類における匂いを介した社会行動や生態の解明につながることが期待されるとしている。
本研究は、東京農工大学大学院農学府の大学院生であった寺嶋太輝氏、同大学院農学研究院の永岡教授、公益財団法人日本野鳥の会の山本裕博士が共同で実施した。
本記事は東京農工大学および日本野鳥の会の発表をもとに作成。
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