海藻由来のアルギン酸が腸粘膜修復を促進 順天堂大などが仕組みを解明
順天堂大学、慶應義塾大学、北里大学などの研究グループは、海藻由来の食物繊維であるアルギン酸が腸粘膜の修復を促す新たな仕組みを明らかにした。マウスモデルを用いた実験で、アルギン酸が腸内細菌叢の変化を介してタウリンを増加させ、腸粘膜の修復を促進することを示した。潰瘍性大腸炎患者を対象とした臨床試験においても、マウスで見いだした経路と整合する生物学的変化が観察されたという。
ヒトの腸内には約40兆個の細菌が存在し、そのバランスの乱れはさまざまな疾患と関連している。順天堂大学医学部消化器内科学講座の小田倉里奈 非常勤助手や石川大 教授らのグループは、大腸粘膜に炎症が起こる指定難病「潰瘍性大腸炎」に対し、健康なドナーの便に含まれる腸内細菌を患者に移植する「腸内細菌生物叢移植(FMT)」の研究を進めてきた。
研究グループがマウス大腸炎モデルを用いて複数の食物繊維を比較検証したところ、海藻由来の水溶性食物繊維であるアルギン酸が腸粘膜の修復を促すことが判明した。アルギン酸の摂取によってBacteroides acidifaciensやLigilactobacillus murinusといった腸内細菌が増加し、これらの細菌が持つ胆汁酸塩加水分解酵素(BSH)によって腸管内のタウリンが増加する。さらに、タウリン輸送体Slc6a6を介して取り込まれたタウリンが遺伝子Cyp2c55の発現を誘導し、組織修復を促進するという「食物繊維―腸内細菌―タウリン―腸上皮」の新たな経路が特定された。
FMT後の潰瘍性大腸炎患者を対象とした臨床試験
基礎研究の知見をもとに、潰瘍性大腸炎患者を対象とした無作為化プラセボ対照試験も実施された。2020年9月から2022年9月にかけて登録された活動期の潰瘍性大腸炎患者53名と健康なドナー19名のうち、48名が試験を完遂した。患者は抗菌薬の内服後に大腸内視鏡でFMTを受け、翌日からアルギン酸飲料またはプラセボ飲料を1日2回、8週間摂取した。
試験の結果は以下の通りとなった。

- 臨床的有効率:プラセボ群(23名)78.3%、アルギン酸群(25名)68.0%
- 寛解率:プラセボ群43.5%、アルギン酸群43.2%
主要評価項目において両群間に統計学的に有意な差はみられず、アルギン酸追加による臨床的有効性は確認されなかった。しかし、便中のタウリンや大腸粘膜における遺伝子CYP2C18の発現など、マウス実験で見いだされた経路と整合する生物学的変化が患者の体内でも確認された。有害事象として肝機能障害、消化器症状、倦怠感、蕁麻疹がみられたが、重篤なものはなく、両群間で有意な差は認められなかった。
食事と腸内細菌の機能を組み合わせた治療戦略へ
研究グループは今後、この経路がヒトにおいてどのような条件で機能するのかや、腸内細菌叢やタウリンを指標として効果が得られやすい患者を層別化できるかなどの検証を進める方針だ。
研究関係者は、患者の協力により基礎研究を臨床研究へつなげられた意義に触れ、今後もFMTの医療現場での活用と治療後の適切な食事に関する研究を進め、患者の治療に貢献していきたいとしている。食事を通じて腸内細菌の代謝機能を制御するアプローチは、潰瘍性大腸炎にとどまらず多様な疾患制御戦略への応用が期待されている。
本成果をまとめた論文は、米科学誌Gastroenterologyのオンライン版に2026年10月21日付で公開された。
本記事は順天堂大学、慶應義塾大学、北里大学などの発表をもとに作成。
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