阪大など、アミノ酸のL型・D型を微弱電流から識別する新技術を開発
大阪大学産業科学研究所の大城敬人准教授や谷口正輝教授らと、ジョージア工科大学、NASAゴダード宇宙飛行センター、シカゴ大学、マサチューセッツ工科大学(MIT)などの国際共同研究グループは、生命の起源を探る上で重要な「L型・D型アミノ酸」を、1個のアミノ酸が生み出す微弱な電流波形から識別することに成功しました。地球外有機物を含むマーチソン隕石や、火星類似環境であるアタカマ砂漠の実試料を分析し、技術の有用性を実証しています。本研究成果は、10月5日(月)付で『Nature Communications』に公開されました。
微弱な量子トンネル電流とAI解析で19種類を識別

分子には右手と左手のように互いに鏡像でありながら重ね合わせられない「キラリティ」という性質があり、地球上の生命はタンパク質をつくる際に主としてL型アミノ酸を利用しています。生命が関与しない化学反応ではL型とD型がほぼ同量生成されるため、宇宙のアミノ酸の偏りを調べることは有機物の生成過程を解明する手がかりとなります。
研究グループは、2本の金電極の間に約0.5ナノメートルの隙間(ナノギャップ)をつくり、1個のアミノ酸が通過する際に流れる量子トンネル電流の波形をAI(機械学習)で解析しました。これにより、19種類すべてのキラルアミノ酸についてL型とD型を高精度に識別したほか、極低濃度の検出や複数アミノ酸が混ざった試料の組成推定にも成功しました。
隕石や極限環境の実試料で技術を実証
研究グループはさらに、米国スミソニアン国立自然史博物館が所蔵するマーチソン隕石の試料や、火星環境に類似したチリ北部のアタカマ砂漠の土壌試料を用いて分析を行いました。その結果、主要なアミノ酸組成を捉え、従来の液体クロマトグラフィー質量分析(LC–MS分析)と共通する傾向を確認しました。一方、成分ごとの定量値やD/L比には差も見られ、実用化に向けてはさらなる精度向上が必要とされています。
大阪大学産業科学研究所バイオナノテクノロジー研究分野の谷口正輝教授は、生命がL型を選んだ理由や宇宙における生命関連分子の痕跡という問いに1分子の電流から迫れる可能性を示したとした上で、今後は複雑な実試料での精度を高め、小型で信頼性の高い宇宙生命探査技術へ発展させたいとしています。
宇宙探査機の制約を克服する小型・高感度な分析技術へ
従来の分析手法では大型の装置や複雑な光学系が必要でしたが、今回の電気式検出技術は標識分子やキラル認識分子を用いません。重量やサイズ、消費電力、耐振動性に厳しい制約がある宇宙探査機において、分析装置の小型化や簡素化につながる基盤技術として期待されています。
実際の宇宙探査への搭載に向けては、未知物質を含む複雑な試料への対応や汚染管理、定量精度の向上、宇宙環境での装置検証といった課題への研究が進められる予定です。
論文情報・研究支援
本研究成果の詳細は以下の通りです。
- 掲載誌:Nature Communications
- タイトル:Chiral discrimination of amino acids in meteorite and desert soil extracts via single-molecule nanogap conductance
- 著者名:Takahito Ohshiro, Yuki Komoto, Takayuki Takaai, Takeshi Yoshida, Takashi Washio, José L. Ramírez-Colón, Hannah L. Mclain, Daniel Duzdevich, Maria T. Zuber, Christopher E. Carr, Masateru Taniguchi
- DOI:10.1038/s41467-026-77947-6
なお、本研究はJST経済安全保障重要技術育成プログラム(K Program)、JST戦略的創造研究推進事業 (CREST)、NASA-PICASSOの一環として行われ、マサチューセッツ工科大学M. Zuber教授、ジョージア工科大学C. Carr教授の協力を得て実施されました。
本記事は大阪大学の発表をもとに作成しました。

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