2026年度本田賞、人工内耳開発のグレアム・M・クラーク教授ら2氏に贈呈へ
公益財団法人 本田財団は、第47回目となる2026年度の本田賞を、多チャンネル型人工内耳の研究開発と臨床実用化、世界的な普及を先導したグレアム・M・クラーク教授とインゲボルグ・ホフマイヤー博士に贈呈することを決定した。クラーク教授はオーストラリアの医師で神経科学者、メルボルン大学名誉教授であり、ホフマイヤー博士はオーストリアの電気工学者でMED-EL共同創業者兼CEOを務めている。贈呈式は2026年11月16日(月)に帝国ホテル東京で開催され、両氏にはメダルと賞状のほか、副賞として総額1,000万円が贈呈される。

言葉の聞き取りを可能にした多チャンネル型人工内耳
人工内耳は、補聴器を使用しても言葉を十分に聞き取ることが難しい高度・重度の難聴者に向けた医療機器である。音の振動を電気信号に変えて聴神経へ伝える「有毛細胞」が正常に機能しない場合、その働きを補うように音を電気信号に変換し、内耳の感覚器官である「蝸牛(かぎゅう)」内に挿入した電極から聴神経を直接刺激して音を脳へ伝える。
装置は、音を拾って処理する体外装置のスピーチプロセッサと、耳の後ろの皮膚の下に埋め込む受信装置や蝸牛内に挿入する電極からなる体内装置のインプラントで構成される。現在主流の多チャンネル型人工内耳では、音を複数の周波数帯に分けて複数の電極を使い分けることで、より多くの音情報を聴神経へ届ける。装置の装用後は、調整や継続的な(リ)ハビリテーションを通じて聞き取りを身につけていくことで、子どもの音声言語習得や成人の就労・社会参加、高齢者の生活の質(QOL)向上などにつながっている。
授賞理由と人・機械相互作用への貢献
1980年に創設された本田賞は、「人間性あふれる文明の創造」に貢献する研究成果を顕彰するため、人間を大切にし自然環境と人間環境の調和を目指す科学技術哲学「エコテクノロジー」の観点から知見や取り組みを讃える国際褒賞である。
両氏は、電極設計、信号変換、神経刺激、手術方法、安全性といった人工内耳の実用化に関わる課題に対し、科学・医学・工学の各側面から改良を重ねた。さらに、クラーク教授は企業連携による製品化と各国での承認・普及を進め、ホフマイヤー博士は企業を設立して技術開発と世界展開を主導した。外界の情報を電気信号に変換して脳の神経経路へ伝達する人工内耳の技術は、人・機械相互作用の基盤となり、他の医療機器の発展の礎にもなっていることから、同財団の設立基本方針に一致する成果として評価された。
両氏の研究の歩みと世界的な普及
1960年代に登場した単一電極の単チャンネル型人工内耳は、音の有無やリズムを感じられても言葉の聞き取りには限界があり、読唇に頼ることが多かった。言葉の理解には複数の電極で周波数情報を分けて伝える多チャンネル型が必要とされたが、電極の安全な挿入や神経刺激の区別、音声情報の伝達性など多くの課題が存在していた。両氏は電極の配置や刺激方法、音声処理技術などを精密に設計し、多チャンネル型人工内耳を臨床で使用できる実用技術へと発展させた。
耳鼻咽喉科医のクラーク教授は、1967年に電気生理学的研究を開始し、1970年にメルボルン大学耳鼻咽喉科教授に就任した。研究チームを率いて多角的な研究を進め、1978年にはメルボルン大学とロイヤル・ビクトリア眼科耳鼻科病院の研究の一環として同病院で多チャンネル型人工内耳の手術を実施した。その後、Nucleus Groupの一部門として設立されたCochlear(コクレア)社とともに技術を発展させ、世界的な普及を導いた。
一方、ウィーン工科大学で電気工学を学んでいたホフマイヤー博士は、1975年に後に夫となるアーウィン・ホフマイヤー博士の誘いで研究を開始した。耳鼻咽喉科医のクルト・ブリアン教授と連携し、1977年にウィーン大学耳鼻咽喉科で多チャンネル型人工内耳の手術が実施された。その後、夫妻でMED-EL(メドエル)社を設立し、技術革新と普及を推進した。
当初は成人を対象としていた人工内耳の適用は小児へも広がり、現在までに世界で100万人を超える人々に使用されている。
公益財団法人 本田財団について
本田財団は、本田技研工業株式会社の創業者本田宗一郎とその弟・弁二郎の寄附金によって1977年12月に設立された(理事長:石田寛人)。財団では「エコテクノロジー」の発展と拡大を目指し、以下の活動を展開している。
- 国際褒賞「本田賞」の運営
- 「国際シンポジウム・懇談会」の開催
- 若い技術者・科学者リーダーを発掘育成する「Y-E-Sプログラム」
業績解説や過去受賞者一覧などの詳細情報は、財団の公式ウェブサイトで公開されている。
- ホームページ:https://www.hondafoundation.jp/index.html
- 業績解説:https://www.hondafoundation.jp/commemoration/index/285
- 過去受賞者:https://www.hondafoundation.jp/winner.html
本記事は公益財団法人 本田財団の発表をもとに作成。
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