東京理科大、相分離を抑えて硬さと強靭さを両立するガラス状高分子を開発
東京理科大学の青木大亮講師(研究当時)や有光晃二教授らの研究グループは、かさ高い有機イオンを対イオンとして用いることで、硬さと強靭(きょうじん)さを併せ持つガラス状高分子を開発した。イオン化しながらもナノスケールの相分離を抑制することで、中和前の前駆体と比べてタフネスを約4倍、弾性率と降伏応力を約2倍に向上させた。研究成果は2026年9月3日付で国際学術誌「Macromolecules」にオンライン掲載された。
室温でガラス状態にある高分子は、弾性率が高く形状を保つ力に優れる一方で、変形の余地が小さく脆い性質を持つ。硬さと強靭さは一般にトレードオフの関係にあり、両立が長年の課題とされてきた。
高分子鎖にイオン性の構造を導入し、静電相互作用を可逆的な物理架橋として働かせる手法の研究が進められてきたが、従来のアイオノマーなどではイオン対が集まってナノサイズのイオンクラスターを形成する。このクラスターが分子鎖の動きを強く束縛するため、ガラス状高分子は脆くなりやすかった。イオン液体等を利用して相分離を起こさずに強靭化する手法も報告されていたが、特定の組み合わせに限られていた。
DMAPを用いた中和で相分離のない均一な構造を実現
研究グループは、ポリノルボルネン骨格にオリゴエチレングリコール側鎖とカルボン酸を密に導入したイオン性櫛型ポリマーを合成した。カルボン酸を中和する対イオンとして、かさ高い有機塩基である4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)と、代表的な無機イオンであるナトリウムを取り上げ、力学特性とナノ構造を比較した。
FT-IR測定によりDMAP系でイオン対の安定な形成が確認された一方、放射光小角X線散乱(SAXS)測定では相分離を示す散乱ピークが現れず、中和率に関係なく均一なナノ構造が保たれていることが判明した。対照的に、ナトリウムを用いた系では相分離が確認され、中和率50 mol%以上で著しく脆化した。
高密度ポリエチレンに匹敵するタフネスを達成
引張試験の結果、DMAPで中和した試料は中和率10~100 mol%のほぼ全域でタフネスと弾性率が同時に向上した。最も良好な条件では、降伏応力と破断強度が約40 MPa、破断伸びが約500%、タフネスが約137 MJ/m3、ヤング率が約0.9 GPaに達した。このタフネス値は、汎用プラスチックの中で強靭な高密度ポリエチレン(約130 MJ/m3)に匹敵する。
動的粘弾性測定では、DMAPによる中和でガラス転移温度が低下し可塑剤としても働く一方、ひずみ硬化弾性率が増加した。これにより、均一に分散したイオン相互作用が架橋点として機能しながら分子鎖の運動性を保つ「柔軟架橋」が強靭化をもたらしていると考えられる。
構造材料や電子材料など幅広い用途への展開へ
本成果は、イオン液体を用いなくても、かさ高い側鎖と有機塩基の組み合わせによって硬いガラス状高分子を強靭化できる指針を示した。対イオンの種類と側鎖設計という操作で力学特性を制御できるため、既存のカルボン酸含有高分子やポリ電解質への展開も期待される。
今後は、このイオン架橋状態を粘弾性緩和の観点から定量的に検証するとともに、他の対イオンや骨格構造への適用を進め、輸送機器や電子機器などの構造材料や電子材料への応用を目指す方針だ。
- 論文名:Anomalous Toughening of Glassy Ionic Comb Polymers: Retention of Homogeneity Achieved by Bulky 4-Dimethylaminopyridinium Counterions
- 掲載誌:Macromolecules
- DOI:10.1021/acs.macromol.6c00773
- 著者:Kotaro Uchiyama, Ryotaro Miyazawa, Daisuke Aoki, Koji Arimitsu
本記事は東京理科大学および科学技術振興機構の発表をもとに作成。
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