富士通など世界初、太陽高エネルギー粒子の予測パラメータ自動決定技術を開発
富士通株式会社、国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学、国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)を中心とする研究グループは、太陽高エネルギー粒子(SEP)の到来を計算する物理シミュレーションのパラメータを自動決定する世界初の技術を開発しました。この技術は、5機の探査機による観測データをもとにブラックボックス数理最適化を用いて19個のパラメータを客観的かつ再現可能な方法で設定するものです。本成果は、英国科学誌「Scientific Reports」に2026年10月20日付で掲載されました。


開発の背景とパラメータ調整の課題
人類の活動領域が月面へと広がる中、日本の宇宙基本計画(2023年6月閣議決定)やアルテミス計画など、月面での持続的な有人活動に向けた取り組みが進められています。一方で、太陽表面で発生するフレアやコロナ質量放出(CME)に伴って放出される太陽高エネルギー粒子は、人工衛星の機器故障や宇宙飛行士の被ばくリスクとなるため、到来の事前把握が求められています。
到来予測には物理シミュレーションが有力な手段ですが、注入効率や平均自由行程といった直接観測できない自由パラメータが数多く含まれます。これまでは専門家の経験や試行錯誤に依存して調整されており、客観的な根拠や再現性の確保が困難でした。また、磁力線ごとに異なる値を設定しようとすると、対象となる19個のパラメータを10通りずつ試すだけで組み合わせが10の19乗通りに達するため、人手による探索は現実的ではありませんでした。
最適化技術SEITENとシミュレーションの連携
今回開発された技術の中核は、富士通が構築した「Fujitsu Solar Energetic particle Intelligent Tuning and Evaluation Network」(SEITEN)です。SEITENは、名古屋大学宇宙地球環境研究所が開発しNICTが運用する磁気流体力学(MHD)シミュレーション「SUSANOO」と、JAMSTECが開発した粒子加速・輸送モデル「SEPIF」を連携させます。MHDシミュレーションのパラメータ設定には、名古屋大学宇宙地球環境研究所(ISEE)のIPS(惑星間空間シンチレーション)観測データが活用されました。
本技術では、オープンソースの最適化フレームワークOptunaを用い、準モンテカルロ法(Sobol’列)による広域探索と、ベイズ最適化の一種であるTPE(Tree-structured Parzen Estimator)による集中探索を組み合わせています。これにより、時間のかかるシミュレーションの試行を広域で1,000通り、有望な範囲で480通りの計1,480回に絞り込んで解を探索します。
5機の探査機データを活用した検証成果
探索にあたっては、BepiColombo、Solar Orbiter、Parker Solar Probe、STEREO-A、SOHOという5機の探査機による観測データを活用しました。太陽からの距離が0.33~1.0天文単位(1天文単位は約1億5,000万km)、太陽から見た角度が約50度にわたって離れた観測を同時に満たす解を導くことで、粒子の散乱の強さなどを表すパラメータの空間分布の推定が可能となりました。
2021年10月9日に発生した太陽高エネルギー粒子現象に適用した結果、5機すべてにおいて粒子の到来から立ち上がり、ピークまでの時間変化がおおむね再現されました。複数の探査機による同時観測を拘束条件とし、MHDシミュレーションと粒子加速・輸送モデルを結合した上で、人の判断を介さずにブラックボックス数理最適化で自動決定する技術は世界初(富士通調べ、2026年10月時点)となります。
研究体制と今後の展望
研究グループは今後、本技術をさらに発展させてより確かに予測できる技術の実現を目指し、被ばくや人工衛星の故障リスクの早期把握を通じて、月面での産業や持続的な有人活動における安全性向上に貢献していく方針です。
本研究の実施体制には、以下の機関が参加しています。
- 富士通株式会社(本店:神奈川県川崎市、代表取締役社長:時田 隆仁)
- 国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学 宇宙地球環境研究所(所在地:愛知県名古屋市、総長:杉山 直)
- 国立研究開発法人海洋研究開発機構(所在地:神奈川県横須賀市、理事長:河村 知彦)
- 国立研究開発法人情報通信研究機構(所在地:東京都小金井市、理事長:大野 英男)
- 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
- 計測・実験素粒子物理学研究所(LIP:Laboratory of Instrumentation and Experimental Particle Physics)
- リスボン大学
本記事は富士通株式会社、国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学、国立研究開発法人海洋研究開発機構、国立研究開発法人情報通信研究機構の発表をもとに作成。
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