神田のバーテンダーが挑んだ故郷群馬でのシードル醸造、3年目でスペインの品評会で最優秀賞を受賞

スペインで開催された国際シードル品評会「Salon International Sidra de Gala」(通称SISGA)で、群馬県沼田市の小さな醸造所が作るシードルが、日本初となる最優秀賞(Premium)を受賞した。シードル専用品種ではなく、地元農家が作る食用リンゴで醸造された、まさに地域発のチャレンジだ。

「世界の生産者を訪ね、様々なシードルを提供するうちに、自分でも造ってみたいと思うようになった」

そう語るのは、フキワレ・シードルリー(上州沼田シードル醸造株式会社)の代表、藤井達郎さんだ。東京・神田で「Bar&Sidreria Eclipse First」を経営する傍ら、週に2回ほど故郷の群馬に戻り、シードル造りに取り組む。

2020年6月に会社を設立し、翌年2月に醸造免許を取得。そこから理想のシードルにたどり着くまでの道のりは平坦ではなかった。「発酵を止めるタイミングがうまくいかず、瓶内で再発酵が進んでしまったり」と、試行錯誤の日々が続いた。

地元リンゴの可能性を信じて

受賞したのは「沼田アップル ドライ」と「沼田アップル スウィート」の2種。いずれも、地元・沼田市の農家から譲り受けた食用リンゴで醸造されている。

「沼田の農家さんは、贈答用の高品質なリンゴを作っています。形が規格外でも、シードル用としては十分すぎる品質です」と藤井さん。国際的には専用品種が主流の中、あえて地元リンゴにこだわった。

この選択が、意外な特徴を生んだ。「日本の食用リンゴは甘みが特徴で、渋みや酸味が少ない。そのため、海外のシードルと比べてクリアな味わいになります」。品評会では、その香りの良さとクリアな味わいが高く評価されたのではと、藤井さんは考える。

バーテンダーならではの視点

現在の年間生産量は約6,000リットル。一人で醸造を行う小規模な生産者だが、その強みもある。

「バーテンダーとして毎日カウンターに立ち、お客様の生の声を聞ける。それが製品開発に活きていると思います」と藤井さん。エンドユーザーの反応を直接確認できることは、他の生産者にない特徴だ。

藤井さんによると、今後はもっと生産量を増やしていきたいという。現在は、原料となるリンゴを一つの地元農家から手配しているが、生産量の増加とともに、他の地元農家とも手を組める体制にしていきたいと考えている。また、現在シードル用の品種を自ら栽培し、それをブレンドした商品の開発にも着手しているが、やはり、地元農家と一緒につくり上げるシードルを大切にしたいという。

「食べておいしいリンゴをどうお酒として消費者に届けるか」。地元農家の営みを尊重しつつ、新しい価値を生み出す。そんな挑戦が、国際的な評価につながった。

Bar&Sidreria Eclipse first 公式サイト
https://www.eclipse-kanda.com/

valvix

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