「定員調整」だけでは研修医の定員充足率や地域間格差は解消されない
順天堂大と自治医大、臨床研修医マッチングの定員枠調整による地域偏在是正をシミュレーション
CATEGORY: テクノロジー
順天堂大学大学院健康データサイエンス研究科の井出博生准教授と自治医科大学地域医療学センターの小池創一教授らの共同研究グループは、過去の医師臨床研修マッチングのデータを用い、各都道府県の臨床研修プログラムの定員枠を増減・再配分するシミュレーションを実施しました。定員枠を最大20%増減させて大きく調整した場合でも、都道府県ごとの定員充足率や地域間格差の縮小効果は限定的であることが明らかになりました。本成果は、現在のマッチング制度の定員枠だけを地方に移しても地域偏在の緩和は難しいことを定量的に示したもので、関連施策と一体的な取組の必要性を示唆しています。
医師偏在指標に基づき定員枠を調整するシミュレーションを実施
研究グループは、2022年の医師臨床研修マッチング協議会の協力を得て、実際の研修医と研修プログラムの希望順位データを用い、現在の制度で使われているゲール・シャプレー・アルゴリズムを実装して検証を行いました。
厚生労働省が策定した「医師偏在指標」に基づき、医師の多い上位3分の1の県の定員枠を削減し、少ない下位3分の1の県の定員枠を増加させるベースラインシナリオ(調整率5%、10%、15%、20%)を設定しました。さらに、調整率20%の時の削減枠(全体で168枠)を利用し、一律、前年のマッチング結果、医師の人口対密度に基づいて再配分する3つのシナリオを設定して効果を検証しました。
定員枠の調整では地域間格差の改善効果は限定的

定員枠の調整率を上げるにつれて、マッチングが成立した研修医の総数は2022年の実データ8,995人から、20%調整シナリオでは8,648人に減少しました。定員枠を大幅に調整や再配分しても、都道府県ごとの定員充足率、都道府県や出身医学部ごとのマッチ率の順位の変動はわずかでした。
地域間の不平等を示すジニ係数は、2022年のマッチング実績で0.443でしたが、20%の定員を調整した場合でも0.409であり、効果は限定的でした。また、一律、前年のマッチング結果、医師の人口対密度に基づく3つの再配分シナリオでも、ジニ係数はいずれも0.4程度にとどまりました。
定員枠を再配分した場合、元の都道府県でマッチしなくなった研修医が他都道府県のプログラムとマッチする割合は低く、結果としてアンマッチとなる研修医が増加しました。研修医側が他の都道府県を希望していない限り、定員枠だけを地方に移しても移動しないことが要因となっています。
地域枠拡充や非金銭的インセンティブなど一体的な対策の推進へ
本研究成果を踏まえ、マッチングの定員枠の調整だけでなく、従来からある医学部地域枠の活用や、医師が少ない地域での研修機会の充実、休暇の付与、仕事のサポートといった「非金銭的インセンティブ」の提供など、効果が実証された対策の推進が重要であるとしています。
論文の筆頭著者である順天堂大学大学院の井出博生准教授は、現行システムでは研修医が希望するプログラムにのみ割り当てられるため定員再配分でも結果が大きく変わらないと指摘し、「研修医の希望を多様化し、選択を拡げるために、地域枠の活用や地域で勤務する医師の支援など、既に効果が示されている対策を進める必要があります」とコメントしています。
発表論文の概要
- 論文名:Effects of Residency Matching Policies on Regional Distribution of Residents: A Simulation Study Using a Stable Matching Algorithm(日本語訳:臨床研修医の地域偏在是正に向けたマッチング制度の政策効果分析:安定マッチング・アルゴリズムを用いたシミュレーション研究)
- 掲載誌:BMC Medical Education(オンライン版)
- 公開日:2026年9月14日付
- 著者:井出博生1) 2)、平松雄司1) 3)、古井祐司1) 4)、小池創一4)(1: 東京大学、2: 順天堂大学大学院健康データサイエンス研究科、3: アクサ生命保険株式会社、4: 自治医科大学)
- DOI:10.1186/s12909-026-10245-3
本記事は順天堂大学および自治医科大学の研究発表をもとに作成しました。
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