QunaSys、FTQC向け量子化学計算で3億ゲート超のEnd-to-End検証に成功
量子コンピュータ向けソフトウェア・アルゴリズムの開発を手がける株式会社QunaSysは、誤り耐性量子計算(FTQC)での活用が期待される量子化学計算向けの量子アルゴリズムについて、3億ゲートを超える量子回路を対象に、回路構築からコンパイル、実行、結果解析までを一貫して行うEnd-to-End検証に成功した。検証には、国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)の量子・古典融合計算基盤「ABCI-Q」に搭載されたNVIDIA Hopper GPU 1,024基を使用している。計算手順の効率化と多数のGPUによる処理の分担を組み合わせ、qubitization型量子位相推定(QPE)のEnd-to-End古典シミュレーションとして、量子ビット数・ゲート数の両面で世界最大規模(2026年時点、同社が確認した公開事例の中で最大規模)の検証を実現した。
qubitization型QPEで化学精度を達成
将来のFTQCで実行する大規模な量子アルゴリズムは現在の量子コンピュータでは実行できないため、実機の登場前にアルゴリズム全体が想定通りに動作し、必要な精度を得られるかを古典コンピュータ上で確認することが求められている。今回の検証では、回路構築からコンパイル、実行、約100万回の測定結果の解析までを一貫して行い、水素4原子モデル(H₄)の基底状態計算に対して化学精度を満たす結果を確認した。
H₄に対するQPEでは、量子回路の最適化により、初期構成で見積もられた99量子ビット・約17.8億ゲートから、28量子ビット・約3.19億ゲートへと縮小した。1,024基のGPUを用いて約1.5時間でシミュレーションと約100万回分の測定結果生成を完了し、最も多く得られたエネルギーと分子モデルの厳密解との差は0.53 mHaとなった。これは化学計算の精度の目安である「化学精度」(1.6 mHa以内)を満たしており、測定分布の解析を通じても想定する精度の結果を返すことが確認された。
1,024基のGPUとソフトウェア技術による検証
検証では、量子回路の構築からコンパイル、シミュレーション、測定結果の解析までの全工程に量子ソフトウェア開発基盤「QURI SDK Enterprise」を使用した。量子回路の構築段階で分子の計算モデルの組み込み方や初期状態の準備方法を工夫し、量子ビット数と演算回数を削減したうえでコンパイルを実施している。
シミュレーションのバックエンドにはNVIDIA cuQuantumを採用した。量子状態のデータを多数のGPUに分散させることで、1基のGPUメモリに収まらない規模の回路計算を可能にしている。さらに、GPU間の通信データ量を削減し、同一計算ノード内の高速通信を優先的に利用することで通信時間の短縮を図った。
量子ビット数拡大とGPU並列処理の評価
計算規模の拡大を検証するため、エネルギー推定で許容する誤差を大きくした条件において、水素原子を鎖状に並べたモデルを2原子から4、6、8、10原子へと拡大した。その結果、H₁₀に対する42量子ビット・約49万ゲートのQPE回路まで実行できることを確認した。
また、H₂に対する32量子ビットのQPE回路を用い、計算内容を固定してGPU数を増やす強スケーリング評価を実施した。その結果、1基で約4,155秒かかっていた処理が512基では約24秒となり、約173倍の高速化を確認した。なお、GPU数の増加に伴い通信回数が増えるため、512基を超えると高速化は頭打ちになったとしている。

今後の展望と発表予定

今回の検証成果について同社は、将来の量子コンピュータ実機でアルゴリズムを検証する際に比較基準となるデータを事前に取得できる可能性を示すものとしている。今後は分子の計算モデルを効率的に表現する手法やソフトウェア技術の高度化を進め、より大規模かつ高精度な検証に取り組む方針である。

本研究は、産総研「ABCI-Qグランドチャレンジ」プログラムによる計算リソースの提供を受け、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の下で産総研と開発した「quri-parts-cuquantum」を活用して実施された。研究成果は、高性能計算分野の国際会議「SC26」(米国シカゴにて2026年11月15日から20日まで開催)のResearch Posters部門に採択され、「Chemically Accurate End-to-End Classical Simulation of Qubitization-Based Quantum Phase Estimation on 1,024 GPUs」の題目で発表される。また、同社主催のカンファレンス「Xtangle 2026」(2026年10月27日開催)でも報告される予定となっている。
株式会社QunaSysについて
株式会社QunaSysは、化学や材料科学をはじめとする産業向け量子アルゴリズムの開発を手がける企業である。東京都文京区に本社を置き、代表取締役CEOは楊 天任が務める。
- 会社名:株式会社QunaSys
- 本社:東京都文京区白山1-13-7 アクア白山ビル9F
- 代表取締役CEO:楊 天任
- 設立:2018年2月
- URL:https://qunasys.com/
本記事は株式会社QunaSysの発表をもとに作成。
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