NTT、黒リン光検出器でホットキャリアの直接取り出しを実証 260GHz動作を確認
東京都千代田区に本社を置くNTT株式会社(代表取締役社長:島田 明、以下「NTT」)は、黒リンを用いた光検出器において、光励起直後の高エネルギー状態にあるホットキャリアを冷却前に電極へ直接取り出す新しい光電変換を実証しました。独自のオンチップTHzエレクトロニクスにより、室温・ゼロバイアスで発生する超高速光電流を直接観測し、260GHzの動作帯域を確認しています。本成果は、従来は熱として失われていた光エネルギーを電気信号として活用するための新たな設計指針を示すものです。
光信号を電気信号に変換する光検出器は、情報通信やイメージング、各種センサーを支える重要なデバイスです。一般的な半導体では、光を吸収して生成された電子と正孔がエネルギーの一部を熱として失い、安定な状態へ緩和した後に電極へ取り出されるため、入射光が持つエネルギーの一部は電気信号として利用されませんでした。
光励起直後の高エネルギー状態にあるホットキャリアを冷却前に電極から取り出すことができれば、従来の光電変換の効率限界を超える可能性や、短い寿命を反映した高速応答が期待されます。しかし、ホットキャリアは数百フェムト秒から数ピコ秒で冷却されるため、電流としての取り出しを直接測定することは困難でした。
黒リンは、約0.3eVの狭いバンドギャップと高いキャリア移動度を示す二次元半導体であり、ホットキャリアを利用した光検出に適した材料と考えられていましたが、実際に電流として取り出せるかは明らかになっていませんでした。
NTTは独自のオンチップTHzエレクトロニクスを黒リン光検出器に組み込み、室温・ゼロバイアスで電極から取り出される光電流の時間波形をサブピコ秒の時間分解能で測定しました。
実験では、厚さ15~25nmの黒リン薄片をサファイア基板上に配置し、金属電極とチップ上の伝送線路を介して低温成長GaAs(LT-GaAs)光伝導スイッチへ接続した素子を製作しました。黒リンの電極付近に波長517nm、パルス幅280 fsのポンプ光を照射して光電流を発生させ、時間差をつけたプローブ光で光伝導スイッチを作動させることで、約0.5psという高い時間分解能で光電流波形を取得しています。
電極付近を光励起したところ、ソース・ドレイン間に電圧を印加しないゼロバイアス条件でも鋭い光電流パルスが現れました。電流パルスの半値全幅は約1.7psで、測定系の応答を取り除いて解析した黒リン内部の光電流減衰時間は410±30fsを記録しました。これは黒リンで報告されているコールドキャリアの応答より3桁短く、光励起直後のホットキャリアが直接電極へ取り出されていることを示しています。また、時間波形から得られた動作帯域は260GHzに達し、高い時間応答性を併せ持つことが確認されました。

超拡散を利用した新原理の光電変換
高速光電流の起源を解明するため、黒リンをアルミナ(Al2O3)絶縁膜で覆い、その上に酸化亜鉛(ZnO)ゲートを形成した試料を用いて測定が行われました。ZnOゲートにより、黒リンを正孔伝導(p型)から電子伝導(n型)まで連続的に変化させて光電流の向きを比較したところ、低速成分はゲート電圧によって向きが反転したのに対し、高速成分はキャリア極性にかかわらず同じ向きに流れることが判明しました。
低速成分は冷却後のキャリアによる従来の光起電力効果で説明される一方、高速成分はホットキャリアの超拡散によって説明されます。光励起直後のキャリアは、コールドキャリアより最大約1000倍大きな拡散係数で急速に広がることが知られています。黒リンでは電子より正孔の移動度が高いため、光励起された正孔が優先的に電極へ到達することで、極性にかかわらず正の光電流が生じると考えられています。



今後の展開と発表情報
一般的な光電変換では熱として失われていたエネルギーを活用できる本成果は、光電変換効率の向上につながる新たな設計指針となります。ホットキャリアによる高速成分と冷却後のキャリアによる低速成分が共存するため、デバイス構造の工夫によって両者を活用できる可能性があるとされています。
今後は、積層構造や電極材料の探索、導波路・金属ナノ構造などによる光吸収の増強を通じて冷却前に電極へ到達するホットキャリアの割合を高め、高速光通信、高効率光検出、イメージング・センシングへの応用をめざすとしています。

本研究成果の詳細は、2026年5月13日付で英国科学誌 Nature Communications にオンライン掲載されました。また、2026年11月18日~25日に開催されるNTT R&D FORUM 2026に展示される予定です。
- 掲載誌:Nature Communications 17, 6193 (2026)
- 論文タイトル:“Sub-picosecond extraction of hot carriers in black phosphorus”
- 著者:Katsumasa Yoshioka, Taro Wakamura, Takuya Okamoto, and Norio Kumada
- DOI:10.1038/s41467-026-72892-w
本記事はNTT株式会社の発表をもとに作成されています。
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