LEO台頭で通信事業者の優位性に変化か A.T. カーニーが論考を公開
A.T. カーニー株式会社は、低軌道衛星通信(LEO)が地上系通信事業者に与える影響を分析した論考『通信エリアだけでは競争優位を守れない時代へ――LEOが塗り替えるグローバルの通信事業者における優位性』を公開しました。衛星通信により人口密度の低い地域から投資収益が徐々に損なわれる中、設備投資計画の対応の遅れこそが真のリスクになると指摘しています。グローバルの通信事業者に対し、次の設備投資サイクルを迎える前に事業戦略や政策形成への関与を明確にするよう求めています。
論考によると、Starlinkは約1万基の稼働衛星を擁し、1万5,000基のコンステレーションについて米連邦通信委員会(FCC)の承認を得ています。2026年第2四半期時点で、160を超える市場に約1,200万件の契約を有し、同四半期の通信接続事業売上高は43億ドルに達しました。コンシューマー、卸売、政府・防衛、法人向けの各事業を、単一のプラットフォームで展開しています。
単一のグローバルネットワークで規模を拡大するほど、1ギガビット当たりのコストが低下し、地域ごとに柔軟な価格を設定できる点が、地理的に固定された地上系通信事業者との大きな違いとされています。一方、LEOは容量を共有するため、人口密度の高い市場では、光ファイバーやケーブルが引き続き構造的優位を持つとしています。
容量拡大と周波数帯獲得で広がる競争領域
現在、一つの衛星ビームが安定的にサービスを提供できるのは、1平方キロメートル当たり3~5世帯です。Kearneyの容量モデルでは、2032年までに現実的なシナリオで8~12世帯、高成長シナリオでは30世帯台半ばまで広がると見込んでいます。打ち上げ頻度の上昇に加え、周波数帯の拡大と再利用も容量上限を引き上げると分析されています。

この変化は、地方の固定アクセス、単独型FWA、補助金を活用した光ファイバー整備の加入率と投資収益率の前提を揺るがします。モバイル市場では、端末直接通信が通信エリアの補完にとどまらず、固定・モバイルのセット契約を通じた顧客維持にも影響を及ぼし得るとしています。
端末直接通信を支える周波数帯の確保も加速しています。SpaceXはAWS-4、Hブロック、AWS-3の計65MHzに約170億ドルを投じることを決め、Amazonは約25MHzの周波数帯を保有するGlobalstarを116億ドルで買収する契約を締結しました。AST SpaceMobileもLigadoのLバンドを80年間利用する権利を確保しており、モバイル衛星通信向け周波数帯はこの競争を左右するボトルネック資産となっています。
設備投資サイクル前に検討すべき4つの問い
本論考は、グローバル通信事業者が検討すべき問いとして、以下の4点を提示しています。
- どこにまだ「勝つ権利」があり、どこではすでに失った領域を守ろうとしているのか
- 守るべき領域で勝つには何が必要か
- LEO事業者との関係を自ら選んでいるか、それとも選ばされているのか
- 政策形成の機会が閉じる前に、政府へどう働きかけるか
今行うネットワーク投資は、10年後にもその多くが未償却のまま残ります。また、2027年10月から11月に上海で開催される世界無線通信会議(WRC-27)では、地上系モバイル周波数帯を使った端末直接通信について、初の国際ルールが定められる見通しです。各国の立場が2027年初頭にかけて固まるなか、グローバルの通信事業者には、経済合理性に基づく投資配分と政策形成への早期関与が求められるとしています。重要なのは、Starlinkのロードマップを正確に予測することではなく、通信エリアを恒久的な参入障壁とみなさずに採算性を確保できる領域を見極め、守るべき領域を守ることであると結んでいます。
論考および監修者の概要
論考の概要および監修者は以下の通りです。
- 論考名:『通信エリアだけでは競争優位を守れない時代へ――LEOが塗り替えるグローバルの通信事業者における優位性』(英題:When coverage alone stops being a moat: how LEO is redrawing operator advantage)
- URL:https://www.jp.kearney.com/issue-papers-perspectives/when-coverage-alone-stops-being-a-moat-how-leo-is-redrawing-operator-advantage
- 監修者:滝 健太郎 シニアパートナー(東京大学経済学部経済学科卒業後、A.T. カーニーに入社。約10年のコンサルティング経験を有する)
- 監修者:竹井 潔 プリンシパル(MITスローン経営大学院修了。東芝(現キオクシア)を経てKEARNEYに入社。経済産業省 JAXA部会委員)
- 発行元:A.T. カーニー株式会社(東京都港区、日本代表:針ヶ谷 武文)
本記事はA.T. カーニー株式会社の発表をもとに作成されています。
ビジネスパーソンの課題解決と納得感にこだわるDellows News編集部。キャリア論からAI、健康法まで幅広い分野に対応し、複雑なテーマでも平易な言葉で丁寧に解説。読者が「明日から使える」知識やヒントを得られるよう、具体的な事例・データ・専門家の見解を交えて執筆。情報を整理し、納得感ある記事づくりを心がけています。



